一なる騎士
「ここだよ」

 クレイドルの腕の中にアディリの姿が見える。サーナとクレイドルの間に挟まれる形で。しかし、頬に血の気はなく、ぐったりとして身じろぎ一つしない。

 サーナの心配げな表情にクレイドルが答える。

「大丈夫だよ、眠らせただけだから」

「眠らせた?」

「人を一人抱えて跳んだんだ。酷く消耗していた。なのに何としてでも王城に入ろうとするから、実力行使をしたんだ」

 口調はいつもの彼なのに、どこか彼らしくない剣呑な言葉使いである。サーナはクレイドルの青い瞳の底に不穏な気配が漂っているのに、今更ながら気づく。ふいに背筋に冷たいものを感じた。

「もしかして、怒っています?」

「もしかしなくても怒っているよ」

「でも、姫様が……」

「わかっている。だが、今の王城の中はとてもかよわいご婦人が行くところじゃない」

「私、かよわくなんてないです。剣だって使えます」

 剣が使えると言っても、ほんとうに付け焼刃程度。しかも姫とともに精霊都市に移ってからサーナは鍛錬も怠っていた。今となっては素人に毛の生えた程度である自覚はあったが、それでもサーナは言い張った。


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