一なる騎士
 呆然自失といった感であったリュイスも、炎に追われるように王宮を脱出する頃には、自分を取り戻したようだった。

 ただもう一度クレイドルに念を押した。

「もういないといったな?」

「精霊を使って<移動>したようですが、……」

 クレイドルはその先を言いよどむ。とても言えなかった。セラスヴァティー姫が今や完全にこの世界から消えてしまっていることを。どこかに出現していれば、精霊たちが報告してくるはずだ。しかし、それが今だにない。

「そうか」

 それだけ聞くとリュイスは平然と事後処理をはじめた。

 まずは兵士たちを集め、王宮内の火災が王都に広がらぬよう手配をする。

 異変が簡単には収まりそうでないことを見て取ると、いまだ王宮の周りにいた貴族たちを王都の外に設置した野営地に避難させ、火災が収まるまで王宮に近づくことを禁じた。

 彼らは特に反対はしなかった。それどころか、王のあまりに凄惨な奇行を目の当たりにした貴族たちの多くは口にこそ出ないが、今すぐにでも己の領地に帰りたがっていた。

 それほどに今の王宮には何人をも拒絶するものがあったのだった。



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