一なる騎士
 いっそのこと、と思う。
 殺してしまえば。亡き者にしてしまえば。
 そうすれば、『一なる騎士』もあきらめよう。

 だが、まがりなりにも我が子。
 希有な宝石のような瞳を持つ幼な子。
 人を惹きつけてやまぬ娘。

 それはけっして、自分も例外ではない。

 出会えば、可愛いさが先に立って、思わず抱き上げて甘やかしてやりたい衝動に駆られそうになる。

 だが、それゆえに余計に冷たくあたってしまう。

 きつい言葉を投げてしまう。

 それなのに、あの子は父を恨むのでもなく、ただまっすぐに彼を見る。
 怯えるでもなく、ただ悲しげな問いかける眼差しで。

 それはまるで憐れまれているかのようで。
 それ故に苛ただしい。

 あの子が持ち、自分がけっして持てえぬもの。
 羨んでいる、いや憎んでいると言っていい。

 だが、あれが、この世からいなくなること。
 それを考えるだけで、胸が張り裂けそうに痛むのだ。
 とても手は下せぬ。目に入らぬところに、押しやるのが精一杯だった。

 その癖、あまり遠くにはやりたくはない。
 身動きがとれなかった。
 手詰まりだった。

 そして、何の手も打てない、そんな無能きわまりない自分が許せなかった。

 できることは酒を飲むことだけ。
 飲んで、すべてを忘れること。

 またも、王は酒をあおる。
 琥珀色の液体を、味わいもせず喉に流し込む。

 手に残ったのは、空っぽのグラス。
 冷たく硬質な輝きを放つ。

 ふと王は、それに視線を落とす。
 はじめて見るかのようにそれを見つめた。
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