一なる騎士
「『大地の王』の真のお役目は、大地を巡る<気>の流れを正しく導くことです。流れない水は腐れます。また必要以上に滞った水はいつか決壊し、被害をもたらしましょう。<気>も同じこと。王の『大地』を慈しむお心が滞りない<気>の流れを生むのです。心配には及びません。たとえ、お感じになることはできなくとも、『大地』を巡る<気>はきちんと流れています。そして、その<気>の流れを力とする精霊たちは今やあなた様の僕なのです」

 何もかもわかったふうな言葉。
 そんな言葉を聞かされるのはまっぴらだった。
 慰めなど、彼の誇りが許さなかった。

 だから、精霊使いたちを放逐した。

 日に日に募る焦りが、自分が実は無能ではないかという不安を生んだ。
 王としてふさわしくないのではないかと。
 そして、次第に、『一なる騎士』の無垢な眼差しに耐えられなくなって来た頃、あの娘が誕生した。

 一目でわかった。

 あれが、何者であるのか。
『一なる騎士』と会わせれば、何が起こるかも。 

 けれど、彼は『一なる騎士』を呼んだ。

 あれほど、彼を冷たくあしらいながらも、ヴィドーラはどこかで己の騎士に甘えていた。
 たとえ、あれが何であれ、自分を見捨てたりはしないだろうと。
 自分が『大地の王』なのだと。

 だが、『一なる騎士』はけっして見誤らなかった。

 幼い姫を真の主に選んだ。
 自分はあれが生まれるまでの繋ぎでしかなかったということなのか。
 そんなのは認めない。
 認められない。
『大地の王』は私なのだ。

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