一なる騎士
 はっと、リュイスは目を瞠った。

「自害?」

 アスタートは、まるで感情のない人形のように淡々と言葉を継いだ。

「誤ってグラスの破片で怪我をしたのだと言われたが、あれはそうではない。死のうとされたのだ。しばらくは酷い興奮状態で手当もさせてもらえなかった」

 自害?

 死のうとした?

 なぜ、そんなことを?

『大地の王』と、あろうものが?

「どうして」

 あまりに突然すぎて、リュイスにはどう考えてよいのかわからなかった。
 それほどに彼と王との繋がりは薄かったのだ。

 と、ふいにアスタートは刃物のように鋭い言葉を投げつけた。

「お前は聞かないのだな、王のご無事を。仮にも『一なる騎士』なら、どうして一番に王の身の安全を気づかわない?」

「それは……」

 痛いところをつかれて、リュイスは沈黙する。王の身の心配よりも先に、リュイスの頭をかすめたのは、そのために起きる『大地』への影響だった。引いては、かの姫君への影響だった。決して、『大地の王』、その人への心配ではなかった。

 そのリュイスに、アスタートは追及の手をゆるめない。
 隠しきれぬ怒気をはらんだ声が続ける。

「お前が誰を真の主と思っているか、など知らぬ。だが、陛下こそが『大地の王』であり、お前はその『騎士』なのだぞ」

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