一なる騎士
「そんな、そんなことはわかっています。貴方に言われる筋合いはない」

 そんなことは、わかっていた。

 王に『一なる騎士』としての忠誠を誓ったのは、他ならぬリュイス自身。

 他の誰でもない。

「わかってなぞ、いないっ!」

 大きな声を上げて、アスタートははっと口をつぐんだ。平常心を取り戻そうとするかのように首を振る。その一瞬の動作で、彼は見事なほどに落ち着きを取り戻した。打って変わって、静かな口調で告げる。

「すまない。王のお怪我はたいしたことはない。俺は、こんなことを言いに来たのではなかった。頼みがあって来たのだ」

「頼み、ですか? この私に?」

 意外な展開に、リュイスは目を瞠る。この王の崇拝者が、王に疎まれた『一なる騎士』に何の頼みがあるというのか。

「そうだ。セラスヴァティ姫を城外に出して欲しい。王の目の届かぬところに、やって欲しいのだ」

 それは、リュイスにとっては、願ってもない話しだった。
 姫を城外に出すにあたって、城の警備隊長の力を借りることが出来るなら、問題の大部分は解決する。

 だが、あまりにも間が良すぎた。何かの罠のようにも思える。

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