一なる騎士

(7)危機

 真っ白いシーツに広がる金の髪を、サーナはやさしい手つきで整えた。薄紅色の花模様のふとんを引き上げて、眠る幼い姫の小さな肩が冷えないようにと、つつみこんでやる。

 久しぶりの安らかな寝顔に、彼女は安堵のため息をついた。
 リュイスを通して、精霊使いたちから届けられた薬草は、心を麻痺させ、眠りを誘うという。しばらくは精霊たちの嘆きもセラスヴァティー姫には届かない。

 幼い体には、かなりの負担になるので、何度も飲ませるわけにはいかない代物だったが、急場しのぎにはなる。もうそんな危ない薬を使う必要もないのだ。

 明日にも、精霊使いたちの元に旅立つからだ。

(どんなところなのかしら?)

 少しばかりの好奇心を感じながら、サーナは思う。
 精霊都市ヴォルテ。
 自治権を持った巨大な学園都市として、その名をサーナも知っていた。
 そこなら、王も容易くは手を出せないだろうことも。

 元々は精霊使いたちが集まって、ひっそりと暮らしていた小さな村に過ぎなかったという。

 しかし、精霊の知恵を求めて訪れたのは、今も名高き賢者エルウェルだった。彼はそのまま、ヴォルテに居を構え、精霊使いたちと生活をともにした。

 やがて、偉大なる賢者の学識に惹かれて、多くの学究の徒がやってきた。人が集まれば、村は町となる。エルウェルの死後、彼に師事した青年たちは、師の叡智を伝えるべく学校を開いた。いまや名門校として知られる、エルウェル学院である。

 もともと『大地』は王の加護のもとに、豊穣を約されている。民の生活にも、ゆとりがあるため、最下層の農民ですら、読み書き程度の学はあってあたりまえである。
 中層階級以上の子息となれば、相応の教養は要求される。偉大なる賢者エルウェルの名を冠した学校は、たちまち入学希望者であふれかえった。

 入学できなかったものたちのために、別の学校が作られ、果ては、エルウェル学院に進学するための学校すら出来上がった。
 小さな山村に過ぎなかったヴォルテは、精霊の護りとともに、そうやって自治権を持つほどの学園都市にと成長したのだ。

 けれど、王都生まれで王都育ちのサーナは他の土地には行ったことがない。見知らぬ土地、見知らぬ人たちのもとに行くことが、不安がない言えば嘘になる。

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