一なる騎士
 なまじきれいに整った顔だけに、迫力がある。知らずサーナは息を飲んだ。

(うっ、こわいっ!)

 しかし、それでめげる彼女ではない。せっかく向こうから話しかけてきたのである。

「だけど、どうして陛下は機嫌を悪くしたのかしら。ほんとうに不思議だわ」
「さあ」
「さあって、リュイス様は『一なる騎士』なのに。大地の王の片腕たるお方なのに。見当もつかないんですか」

 言ってしまったあと、後悔した。
『大地の王』と『一なる騎士』の仲はうまくいっていない。いや、王が彼を一方的に疎んじている。それは、宮廷のだれもが知っていることだった。彼がもう十八にもなるのに、見習い騎士のままなのは、王の意向のためだと、もっぱらの噂である。

「ごめんなさい、余計なこと言って」
「いいさ」

 言葉ではそういいながら、ぎりっときつく唇をかんでうつむく彼を見てとって、サーナは眉をよせた。

 そのまま白々しい沈黙がふたりの上に落ちる。石畳のうえを歩く、ふたりぶんの足音がやけに大きく響く。

 王妃の部屋の扉の前まできたとき、ふいにサーナは振り返った。
 青灰色の瞳に真剣な色を浮かべ、一生懸命に言葉を探しながら、リュイスに語りかける。

「あの、きっとがんばれば、リュイス様もちゃんと『一なる騎士』として、陛下にも認められるようになりますから。だから気を落とさないで下さい」

 リュイスは驚きの色もあらわに、サーナを食い入るように見つめた。サーナがたじろくと、彼ははじめて彼女に笑顔をみせた。

「ありがとう」

 翳りを残したまま笑ったリュイスに、サーナは思わず見とれてしまう。いつも眉間にしわを寄せて考え込んでるような、見た目は良いけれど、暗くて近寄りがたい。その彼が笑うと、年相応の生き生きとした表情があらわれた。まるで別人のよう。

(この人って、ちゃんと笑えるんだ)

 サーナは妙な感心の仕方をすると同時に、そっと思う。心の底から笑う彼を見てみたいものだと。
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