一なる騎士

(2)サーナ

 肩を並べてサーナとリュイスは黙ったまま歩いていた。

 サーナはなにかしゃべっていないと落ち着かない質だったのだが、この青年とは何を話したらいいのかさっぱり見当もつかなかった。

 リュイス・フォーレン、一なる騎士。
『大地の王』を聖別し、その随一の騎士であるべきもの。

 本来なら、王の親衛隊長を務めるべきのものであるのだが、その年若さのため、いまだ見習い騎士でしかない。

 つややかな黒い髪と黒い瞳。きれいに整った顔。けれど、いつも暗い表情をして、口数もさして多くない彼は、たいていの人とすぐに打ち解けることを特技とする彼女にしても、近寄り難い人物で、通りがかりにあいさつを交わすのが精一杯だった。

 沈黙に耐えかねて、話題を頭のなかでぐるぐると探していると、リュイスがぽつりとサーナに尋ねた。

「陛下はお喜びだったか」
「それが」

 サーナは困ったような顔をした。
「姫様をご覧になると、急にご機嫌が悪くなったみたいで、すぐに帰ってしまわれるし……。あんな可愛らしくて綺麗な、見ているだけで何だかとても幸せな気分になれて、まるで奇跡のようなお子様なのに」
「そうか」

 サーナは唇をとがらしてふくれ面をした。リュイスは彼女の興奮を分かち合ってくれるどころか、彼女の言葉を少しも取り合ってくれようとはしない。思わず憎まれ口をたたいた。
「お会いになっても、まだそんなこと言えるのなら、言えばよろしいわ」

 リュイスはそんなサーナにそっけない一瞥を投げただけだった。
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