一なる騎士
「これを私の代わりに」

 セラスヴァティー姫の手のひらの上に、大きな虹色の宝石のはまった指輪があった。

「……あっ」

 側で見守っていたサーナは、思わず声を上げた。

 それは月虹石。

 遥かな昔、初代の『大地の王』の婚礼の祝いに『天空』と呼ばれる異界から贈られたもの。

 代々の『大地の王』の妃に受け継がれたそれを、一時期王妃の側近くに仕えたことのあるサーナでさえ目にするのははじめてだった。

「きれい」

 手の上に置かれた虹色に輝く石を、無心に見つめて幼い姫君がつぶやいた。
 王妃は指輪を金の鎖に通すと姫の首にかけた。

「大事にするのですよ。それはあなたを守り、あなたの身の証を立てるでしょう」

 背に純白の翼を背負うと言われた『天空の民』との接触が断たれてから、幾久しい。
『天空』は、いまや伝説の世界。
 それ故に、月虹石は『大地』にはまたとないもの。

「はい、母様」

 王妃は身を起こすと、母子の様子を見守っていた二人に声をかけた。

「どうかお立ち下さい」

 立ち上がったリュイスにならって、サーナも身を起こす。
 と、王妃はまっすぐにサーナに近づくと、その手を取った。


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