一なる騎士
「母様?」

「え?」

 姫の言葉に驚いたリュイスに、涼やかな声がかけられた。

「お久しぶりです。リュイス様」

 アスタートの後ろから、ほっそりとした白い姿があらわれた。
 彼の巨躯に隠れてリュイスからはわからなかったのに、類い希な幼き姫君は敏感に察知していたのだろう。

 朝靄にとけ込む白いマントをまとったその人は、大地の王の后にしてセラスヴァティー姫の母であった。
 三児の母となっても、この人の美しさに衰えはなかった。

 マントのフードから肩先にこぼれ落ちる髪は、見事なばかりの金色。
 湖水のように澄んだ青い瞳には、若い頃にはなかった深い憂愁のかげりが落ちている。しかし、それですら彼女の美貌に華を添え、よりいっそうはかなげにまるでこの世のものではないかのように見せていた。

「いえ、こちらこそ失礼しております」

 リュイスは抱いていた姫を下ろし、片膝をつく騎士の礼を取る。
 サーナもリュイスの側に膝を落とし、頭を下げた。
 下ろされたセラスヴァティー姫の方は、なんのためらいもなく母の膝に抱きついた。

「セス、セラスヴァティー、私の可愛い子、よく無事で」

 王妃は真白いマントが汚れるのもかまわずに、地面にひざを突くと胸の中に我が子を抱きしめた。昨夜の一件は彼女の耳にも入っていたのだろう。

「母様」

「ごめんなさい、セス。私はあなたと一緒にいけない。だから……」

 王妃は娘から身を離すと、その小さな手を取った。


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