一なる騎士
「やりたければ、私を断罪すればいい。お前の王を、王となせばよい。だがな、そうはうまくはさせんぞ。お前の勝手にはさせない。思い通りにならぬからと飼い犬を取り替えるような気安さで取り替えさせはしない。私は王なのだからな。たとえ場繋ぎの王とはいえ、王は王だ。お前が私を『王』にしたのだから。そうだ、『大地』は、いまだ私の手の中にある、くくっ、ふっ、ふはははははっ……」

 おかしくてたまらぬとでも言いたげに再び笑い出した王から、リュイスは身を退いた。

 かすかに首を横に振る。

『大地』の豊穣と安寧を祈願することなど、たやすいことのではないのか。
 なのに、この王は、このまま『大地』とともに滅びようとでも言うのか。

 十四年前のあのとき、彼はこんな人ではなかったはずだ。
 王としての責務を果たすと、心から誓っていた。

 あのアスタートが、いまだ崇拝してやまない人だ。
 なにが、彼をそんなにまで変えたのか。
 追いつめ、押し潰したのか。
 心を壊してしまうほどに。

 リュイスにはわからない。
 見当もつかなかった。
 彼はあまりにもこの人を知らなかった。

 けれど、ひとつわかることはある。
 それだけは、させるわけにはいかないということ。
 たとえ何を犠牲にしようと。
 姫を悲しませることになろうと。
 それだけは、何としても止めなくてはならない。

 たとえ彼の命を奪うことになっても。
『大地』を滅ぼさせるわけにはいかないのだ。

「陛下、私には貴方がわからない。貴方が何を考えているのか、何が望みなのか、私にはわからない。けれど、貴方をこれ以上『大地の王』としてはおけない」

 今となってはリュイスがこの狂いかけた男にしてやれることは、王としての重責を取り去ってやることだけなのだろう。

「女神の名にかけて、私は『一なる騎士』としての勤めを果たしましょう」

 いまだに笑い続ける王に背を向けて、リュイスは部屋から立ち去った。




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