一なる騎士
 南向きの明るい子供部屋の小さなベッドでは、セラスヴァティー姫が眠っていた。
 その健やかな寝息に耳を澄ましながらも、サーナは手仕事に余念がない。

 彼女の膝にあるのは、冬物の赤い外套。白い縁取りが可愛らしい。
 精霊使いたちが用意してくれたそれは、小さな姫君には大きすぎて丈を縮めないと、そのままでは着せられなかった。

 山間部の冬は早いと聞いた。
 急がないと間に合わない。

 けれど。

(これを着て、姫様が外に出ることがあるのかしら)

 王都から、精霊都市までの旅。
 十日ほどかかったが、整備された街道を使っての馬車の旅だった。
 健康な大人にとってはどうということもない道乗り。

 しかし、ただでさえ弱っていた幼いセラスヴァティー姫には、かなりの負担だった。
 旅の間、疲れたそぶりなど見せず、見慣れぬ光景に子どもらしくはしゃいでいた姫君だったが、ヴォルデに到着してこの館に落ち着くやいなや、熱を出してしまった。

 熱は一晩で引いたが、それから三、四日ほどは床から起きられず、食事もほとんど受けつけず、たちまちのうちに容態は悪化した。

 血の気を失った青ざめた顔に浮かぶのは、苦しげな表情。小さな唇からもれる息づかいはあらく安定しない。ぐったりと投げ出され、力を失った手足。一回りは小さくなって、今にも命の炎が消えてしまいそうだった幼い姫。

 いまでも思い出しただけで、サーナは胸が痛んで、どうにかなりそうだった。



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