一なる騎士

(3)小さな教師

 空を削り取るような、とがった山並みに護られるように精霊都市ヴォルデはある。

 平地がほとんどないために、斜面にしがみつくようにして建てられた、いくつもの大きな建築物が見える。民家と言うにはほど遠い大きさのそれは、ヴォルデの中心産業と言える学院の施設だ。

 その中でも、ひときわ大きく、不格好な灰色の建築群がある。
 何度も増改築を重ねたため、新旧の技術と意匠が混在し、まとまりに欠けてしまっていた。

 しかし、それこそが学園都市でもあるヴァルデでも、もっとも古く、そして高名を馳せるエルウェル学院の校舎だった。

 校舎の裏庭のさらに奥。

 林の中の、細く急な坂道を登ると、ひっそりとたたずむ白亜の邸宅がある。
『封の館』とも呼ばれるそこは、精霊使いたちが何世代もかけて作った結界に守られている。この中には精霊たちは近づけない。

『精霊の愛し子』と呼ばれる子どもたち。
 生まれながらに精霊に愛され、その守護を受けるものたち。

 けれど、同時にあまりにも精霊との同調が強いため、彼らに悪戯されたり、あるいは他に危害が及んだりすることがままある。ときには命を失うことも。

 ゆえに『精霊の愛し子』たちは、精霊使いとして最低限の技能を獲得し、他人や自分に危害が及ぶ心配がなくなるまでのあいだ『封の館』で過ごすのだ。

 そして、今、『封の館』には幼いセラスヴァティー姫と侍女のサーナの姿があった。


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