一なる騎士
「リュイス?」

 おずおずとした声に戸口を振り向くと、そこに彼の姉サジェルが立っていた。
 黒い髪を既婚の女性らしくきれいに結い上げて、なんのへんてつもない地味な茶色のドレスを身にまとった彼女は、リュイスと少しも似ていなかった。

 男性ながら、すっきりと整った端麗な容貌の持ち主であるリュイスに比べて、ぱっとしない凡庸な容貌の姉。
 二人が子どもの頃は、見かけが反対だったらよかったのに、とまわりによく言われたものだった。 

「おひさしぶりです、姉上」

「立派になったのね」

 近寄ってくる姉の灰色の瞳には、いつものようにどこかおどおどした表情があった。

「姉上もお元気そうで」

 彼女は、前にあったときより少し老けてやせたようだった。
 差し出された手を取ると、手の甲に口づけを落とす。
 たった二人きりの姉弟が久しぶりにあったとも思われぬ、よそよそしい挨拶。

 サジェルとリュイスは六歳も離れていたし、彼女は昔から引っ込み思案で口数が少なかった。リュイス自身もそう口数が多い方でもなく、もともとそれほど親密な姉弟と言うわけでもなかった。

 リュイスは八歳で『一なる騎士』として宮廷に伺候するようになったし、彼が十一になった頃には、サジェルはセイファータ家に嫁いでいった。

 しかも、サジェルは正夫人ではないため、宮廷に伺候できず、よほどのことがなければ会うこともないまま、彼らはますます疎遠になっていた。

「レイルは元気ですか?」
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