一なる騎士
 玄関の呼び鈴を鳴らすと、人の良さそうな太った中年の家政婦が取り次ぎにあらわれた。

「まあまあまあ」

 彼女は彼を見るなり意味不明の言葉を発した。

「まあ、リュイス様? まあ、なんて立派になって。見違えましたわ。さあさあ、中にお入り下さい」

 傍若無人な強引さで、彼女はそのままリュイスを中に引き入れた。

「ほんとにもう何年ぶりかしら? レイル様がお生まれになったとき以来ですから、四年、いえ五年ぶりですわね。あのときはもうほんとうに大変でしたわ。いえ、お産っていうものはいつだって、なにかしら大変だって、相場が決まっていますけれどね。うちの妹の時も、それはもう大変で。なにが大変だったかって、女房が産気づいたのに、あわてた妹婿が、ひっくり返って頭を打ってしまったことですわ。まあ、男って、こんなときにはほんとに役に立たないどころか、足まで引っ張るんですから、だらしがないことですわね。でも、思い出しますわ。レイル様はほんとうに玉のような男の子で、公爵様もずいぶんお喜びでしたわ」

「はあ」

 間断なくしゃべり続ける彼女に圧倒されて、リュイスは相づちをうつのがやっとだった。用件を切り出す隙がない。

 しかし、必要以上におしゃべりであっても有能な彼女は、リュイスの思惑など先刻お見通しであった。こぎれいな客間に彼を通すなり、

「奥様は裏庭ですの。すぐにお呼びしますわ」

 と、太った身体に似合わぬ素早さで、たちまちのうちに姿を消した。

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