一なる騎士
 あれは、まさしく当時の母の再現だったのだろう。
 母は激しい気性と強い意志の持ち主だったと聞いていた。

 一介の騎士に過ぎなかった父に、押し掛け女房も同然に嫁いできた。立派な家柄の貴族との縁組みも整っていたというのに、それすらも袖にして。当然、彼女の父、リュイスたちから言えば祖父にあたる人の怒りを買い、絶縁状態となったが、まったく意に介さなかったという。

「もっと早くに聞きたかった」

「ごめんなさい」

 素直に謝るサジェルは見て、リュイスは自分が無理なことを言っていることに気がついた。

 たしかに、この間会ったとき、彼女はそんな伝言を伝えるどころではなかったはずだし、その前は、

(父上の葬儀の時だったな)

 それでは、いくら何でも切り出せなかったろう。

「今年は咲かなかったわ」

 いきなりの話題の転換。
 ついていけないまま、どこか寂しげな姉の視線の先をたどると、窓際におかれた鉢植えが目に入った。

 緑の葉はどこか萎れたように元気がない。

 サジェルは、花の栽培には才能がある。リュイスの幼い頃の記憶にある限り、彼女はいつも庭で土いじりをしていた。彼女に咲かせない花などないほどだった。その姉が世話をして、咲かせられなかったということは、ここにも『大地の王』の乱心の影響が出ているということだろう。

「咲きますよ、来年は」

 そのためにこそ、自分は『一なる騎士』としてあるのだと、リュイスは信じたかった。


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