一なる騎士
 姉のサジェルが嘘をついているとは考えられない。彼女が弟にそんな嘘をわざわざつく理由などない以上、そうとしか説明がつかない。

『一なる騎士』の継承は常に母方の血筋によってなされる。彼の息子でなく、姉妹の裔(すえ)に、その地位は引き継がれる。『一なる騎士』の血統は、女性の中に息づいているのだ。彼女たちが不思議な力を持っていたとしても、おかしくはないのかもしれなかった。

 考えてみれば、姉のサジェルにしても奇妙なところがあった。子供のときから遊び相手はいつも庭の植物たち。年の近い近所の女の子たちとの遊びには見向きもしなかった。

 彼女の育てた花は、いつもどこの庭のものよりも華やかに咲き続けた。単に手入れがよいというだけの差とは思えないほどに。

 控えめでおとなしく見えても、意外に強情で、芯のところに強いものを持っている人でもあった。譲れないところは決して譲ろうとはしない。

 今日もけっきょく、リュイスは甥に会うことはかなわなかった。遊びに行っていると言ってはいたが、いたとしても会えたかどうか怪しいものだった。すまなさそうに見せても姉のサジェルには息子を弟に会わせる気はないようにみえた。

 サジェルは『一なる騎士』として負う定めを辛いだけのものとして、受け取っているようだった。

『大地の王』の守護者にして、断罪者。

 決して、軽い責務ではない。しかし、同時に誇りある使命でもあった。

 そして、真の主を得たリュイスにとって『一なる騎士』としての宿命は、すでに重荷ではなく、喜びへと変わった。

(元気でおられるだろうか?)

 知らず面影を追う。
 今は遠く離れてしまった幼き姫。
 彼の真の主。
 そして、その側にある人。将来を誓った人。

(サーナ)

 季節は冬に向かおうとしている。
 山間にある精霊都市ヴォルデの冬はまた一段と厳しいと聞く。
 彼女たちの無事を願う彼は、近寄ってくる人の気配に気づかなかった。

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