一なる騎士
(いや、姫君が、類稀すぎるのか)

 むしろ、あれがあの年代の普通なのだろう。
 リュイスは無意識のうちにあの姫を基準に考えていたのだ。

 四つにしかならなくても、はっきりとものを言い、決して人をそらさない。自分勝手なわがままな振る舞いに及んだところなど見たこともない。目上の者に話しかけられて、あんなふうにろくに挨拶もしないで、自分から立ち去るような非礼なまねなどもってのほかだ。

 けっきょくは、あのレイルはどうという取り柄もない普通の子どもだ。平凡すぎて『一なる騎士』の使命を背負わせるには、あまりに頼りない。

 姉が、『一なる騎士』として責務を負うことを災厄のように考えるはずである。

 しかし、思い返せば、リュイスとて、子どもの時分には似たようなものだった。たまに訪ねてきた客人の顔を見るなり挨拶もしないで逃げ出したりもしたし、書斎にこもって本を読んでいる父の気を引きたくて、無理やり膝に上がり込んだりもした。

 優しい父は笑って怒りもしなかったが、そんな普通の子どもであったリュイスを年の離れた姉は知っていたはずだ。

 おとなしく物静かなだけに傍目には彼女の心情ははかりかねる部分がある。

(もしかして、姉上は私がつらい目にあっていると、無理をしていると、そう思われているのか)

 それほどまでに頼りなく見えていたのか。

 そして、だからこそあの言葉なのか。

(「そんなものでなければよかったのに」)

 と。



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