一なる騎士

(6)最大の障害

 リュイスは、各地の貴族たちに送る何枚もの書面に目を通しつつ署名と封を施していた。

 装飾過多な書面自体は、セイファータ公爵の書記が制作したもの。

 難解な言葉で美々しく書かれているが、要は『大地の王』を交代させるために『一なる騎士』の軍に参加を呼びかけたものだった。

 堕落した王とはいえ、ヴィドーラは聖別された正当な王には違いない。たとえリュイスが単身『一なる騎士』として、『王』と『大地の剣』との間にある絆を切り離したところで、『大地の民』は彼の独断としか見ないだろう。

『一なる騎士』は、王の守護者にして断罪者。

 相反する勤めを持つもの。
 
 しかし、いまだ『一なる騎士』で実際に王を断罪したものはいない。下手をすれば騎士にあるまじき反逆の徒として追われかねない。

 王の交代が『大地』の合意のもとで、行われたことを民に示さなければならなかった。そのための示威行為には軍勢が必要だった。

 なるだけ多くの軍が。

 リュイス自身は反逆の徒して追われることになろうと、いっこうにかまわなかった。
 幼かったとはいえ、他人の言いなりのままにあまりにも大きな過ちを犯してしまった。

 
 しかし、だからこそリュイスには次代の王にふさわしいものを聖別し、王位につけるという勤めが残されていた。

 反逆の徒として追われるわけにはいかないのだ。

 軍勢を集めるために、セイファータ公爵の力を借りなければならないのがはなはだ不本意ではあったが致し方なかった。

 一介の騎士の息子に過ぎない若いリュイスには、軍勢を集めるだけの資金も人脈もない。


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