一なる騎士
 丘の上をわたる風は気持ちがよかった。
 ここ数日、部屋の中にこもりきりだったから、なおのことだった。
 眼下に広がる金色の沃野の中に、白亜のセイファータ城が霞んで見えている。

 背後から蹄の音が近づいてきた。
 かしましい声が響く。

「だああ、リュイスちゃんたら、酷いんだから。そんなに急がなくてもいいじゃないか」

 やっと追いついてきたエイクが栗毛の馬から転がり落ちるように地面に降りると、そのまま座り込む。鮮やかすぎる色合いの服が土に汚れるのもいっさいかまわずに。

「別に急いだつもりはありませんが」

 丁寧だが素っ気ない答えに、エイクはふうとひとつため息をつきながら、馬上の彼を見上げた。ちょっとすねたように頬を膨らませるが、三十も過ぎたいかつい男の顔でやられても不気味なだけである。


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