ボーダー

狂宴

沖縄旅行から5日後。

私は、自前のロイヤルブルーのドレスを着て、ゴールドのクラッチバッグ、シャンパンゴールドの7cmヒールの靴を履いて、宝月邸を出た。

……門を開けた、その瞬間。

すると、武田さんが迎えに来てくれるときによく乗ってきてくれるリムジンよりかなり長いリムジンが泊まっていた。

「乗って、メイちゃん!」

黒いミニ丈のドレスを着たハナちゃんが、迎えてくれた。
私の手を引いてくれるのは、友佳ちゃんだ。

同じく黒いドレスだ。
胸元と袖が透ける素材になっている。

リムジンに乗り込んで周りを見渡すと、ハート型のバルーンで飾り付けられている。

菜々美ちゃんや有海ちゃん。
由紀ちゃんや愛実ちゃんもいた。

皆、それぞれ黒いドレスを着ている。
黒いドレスでも小物が明るい色だから暗すぎない。
このコーディネートは、小さくVサインをしているナナちゃんが考えたものか。

リムジンでお台場や東京タワー、横浜など、景色のいい場所でたくさんドレス姿で写真を撮った。
移動中はいつものガールズトークだ。
主に、沖縄旅行に参加しなかった組の恋愛事情を掘り下げる。

東京タワーで写真を撮ったあとにお酒……はまだ飲めないので、ジュースで乾杯となった。

「あと1週間ありますけれども……。
あと1週間で名実ともに既婚者になります、宝月 冥ちゃんに乾杯ー!」

音頭を取るのはハナちゃんだ。
さすがは、ブライズメイドのリーダー。

「この様子は、写真を及び動画に一部を収めさせていただきます!
キワドい話のときはカメラは止めますので、ご安心ください!」

そう言うのは菜々美ちゃん。

横浜のみなとみらいで大観覧車をバックに撮影をした後、皆でホテルに向かうという。

リムジンを降りて、応対してくれた男性に深く頭を下げた。
どことなく、宝月邸の執事になるべく、研修をしている男性に似ているような気がした。
そこまで気にしていても仕方ない。

きっと気のせいだ。

「ご予約の蒲田様御一行ですね。
承っております。
どうぞ。」

宝月邸にいるような執事と似た格好のボーイさんが、私たちを部屋に案内してくれた。

バスタブとシャワールームが別になっている、バルコニー付きのリビング。

白と木目調の家具で統一された、バルコニー付きのリビング。

そこは、リムジンとはまた違うバルーンの装飾と、「HAPPY WEDDING」の文字や、プロジェクターやモニターが置かれた空間。

そして、ノックの音が。
特別なお客様に、特別な、お客様方だけのサービスを。

「こちら、アフタヌーンティーのサービスでございます。
このサービスを提供してくださった方から、ご伝言も承っております。
オレたちもバチェラーパーティー楽しんでるから、女子たちも弾けられるように、ささやかながらお手伝いを、とのことです。」

……絶対、蓮太郎だな。

アフタヌーンティーでのお茶菓子を食べる私のリアクションを、不安げな表情で見ているのは麻紀ちゃんだ。

もしかして。

「もしかして、アフタヌーンティーセットのスコーン、麻紀ちゃんの手作り?」

「えへへ、当たり!
沖縄から帰った後、真の実家のキッチンを借りて、真からも、彼の母からもアドバイス貰いながら作った甲斐があった。」

部屋に入ると、『本日の主役』と書かれたタスキを肩から下げられ、頭に小さなティアラを被せられた。

「うん、本日の主役感出てる!」

「盛り上がろー!」

「あ、そうそう。
亜子さんに言われてね、結婚式当日は何回か私がピアノ弾くよ!
2曲弾くつもりではいたんだけど、何曲か追加でお願いされちゃって。
楽しみにしてて!」

「あ、盛り上がる前に、ごめん、1分だけ時間ちょうだい。
沖縄旅行にいた人は知ってるんだけど、行ってない人のほうが多いから、ここで報告させて?

あの、私、妊娠してるの。
もちろん、この子のパパは私の旦那。

昨日、無理やり職場に休みもらって産婦人科行ってきたんだ。
超音波で見てもらって、胎嚢、つまり赤ちゃんを包む袋は確認できたの。

心拍は、あと2週間後には確実に確認できてるはずだから、って。」

「えー!」

菜々美ちゃんも有海ちゃんも、愛実ちゃんも、驚きつつも喜んでいた。

良かったね、友佳ちゃん。

「もう、何で言ってくれなかったのよー。
発達心理学は飛び抜けて成績良かったから、何か役に立つこと話せるかも!
悩んだら何でも言ってね!」

さすがは由紀ちゃん。
励まし方がカウンセラーだ。

「ごめんね、1分だけ主役の座奪っちゃった。
これからは今日が終わるまで、主役はメイちゃんだから、盛り上がろう!」
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