ボーダー
<矢榛side>

とりあえず、女子と男子に別れてスタンツの話し合いをしていた。

そしたら、女子たちの会話の中に俺の名前が出てきたからビックリした。
そっちの会話になるべく耳を傾けていた。

女子の集団をしばらく見つめていると、主にミツから集中しろって言われた。

集中なんて出来るわけない。

だってナナちゃん、泣いてたよ?

"バスケ部の先輩"という言葉に身体がビクっと反応する。

そういえばナナちゃん、バスケ部の先輩に指導受けてたな。

頭の中に、あるシナリオを描いた。

そして、その先輩の元に行こうとドアに向かって歩き出す。

ナナちゃんが別室に入っていったのとほぼ同時だった。

「待て矢榛。」

ドアを開けようとした俺を止めたのはミツだ。

「気持ちはわかるが、行ってどうする?揉め事を起こしたりすれば、せっかくのキャンプが台無しだぞ。
それに……」

「お前には先に、行くべきところがあるだろ?」

何かを示すように、一呼吸おいて、ドアをチラ見しながら言うミツ。

そうだ。

ナナちゃんのところに行ってあげなきゃ。

きっと……

いや、絶対に泣いてる。
向かいのコテージのドアを静かに開けて、ナナちゃんに声をかける。
弾かれたようにオレの顔を見る彼女の瞳は、涙で濡れていた。

後ろから抱きしめてやるべきなのかわからず迷っていると、ナナのほうからオレに抱きついてきた。

「信ちゃん!」

中学2年生ともなると、胸も出てくる。
Bは確実にあるだろうか。
その感触に、女のコなんだな、と感じる。

……俺も男だ。
下半身が反応し始めているのがバレないように願いながら、優しく問いかける。

「どうした?」

「信ちゃん……私、フラれた。
ずっと好きだった、バスケ部の先輩に。
陽菜役を演じるにあたって、いろいろ演技指導をしてもらったこともあった。
それに、さっきの炊事でもいっぱい助けてもらって……

気持ちにブレーキかからないから停電の騒ぎに紛れて告ってきたんだけど……

フラれちゃったよ。

彼女、いるんだって……。」

その言葉を言い終わらないうちにまた声をあげて泣き出した。
俺は彼女が泣いている間中、そっと抱きしめながら背中をトントンしてあげていた。


「オレはナナちゃんのこと……突き放したりなんかゼッタイしないよ。ずっと側にいるからね。」


オレは眠ってしまったらしい彼女の耳元で囁いた。

「好きだよ」

聞こえているわけ、ないんだけど。
俺は、先輩みたいにカッコよくもないし、ヘタレだから、こういう伝え方しか出来ないや。
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