ボーダー
メイの肩に置きかけた手が止まる。

……メイ?

まさか……泣いて……る?

……何なんだよ。

裁判で負けたからって、泣くヤツじゃないことは、オレが一番知ってる。

「…来ると思ったわ、蓮太郎。」

「泣きながら言われても、説得力ねぇな。
……メイ。」

法廷じゃ気が強いけど、普段は涙もろくて寂しがり屋な女なんだよな。

そこが……オレは好き。

「メイ。
何か……あった?」

泣いてるメイを見たくなくて、そっと抱きしめる。

「アメリカで……いろいろあってね。
ちょっと帰る気がしないだけ。」

「電話……してきていいからね?
いつでも。
なんなら、オレがそっち行くしさ。
オレ、もうメイのガールフレンドに立候補してると思ってたけど。
メイ、お前のこと守りたい。

ねぇ、メイは違うの?
俺のことはボーイフレンドじゃない感じ?

すぐじゃなくていいから、返事、聞かせてくれな。」

そう言って、さらに抱きしめる力を強める。

しばらくオレの胸で声をあげて泣いてたメイ。

何があったんだよ。

この子は、父親を亡くしてる。
しかも、その人は犯罪を犯したので、刑に処されて亡くなったのだ。

葬儀も近親者だけで、ひっそりとやった。
その時も、ここまでこの子は泣かなかった。

抱き締めていた手が、胸に触れてしまった。

「悪い、メイ。」

少し痛そうにしている。

頭を撫でてやると、メイは俺に強く身体を押し付けてきた。

当たるんだけど。
そのおかげで、俺の息子は元気になる。

ああ、家帰ったら自分で処理するコースだな。

抱き締める身体を離したときに気がついた。
メイの肩に青紫色のアザができている。

不審に思って遠目からメイを見ると、綺麗な脚にも同じようなアザがうっすら見える。

「やっぱり、何かあったんだろ?メイ。
肩と脚にアザできてる。」

「……っ!
アメリカで……いろいろあったって言ったはずよ。
…そろそろ出国の時間だから、行くわね?

日本を発つ前に、思いがけずボーイフレンドに会えて嬉しかったわ。」

……オレにそう言い残して、ゲートに向かったメイ。
またしばらく、会えないのか……。

メイの乗った飛行機が無事に離陸したのを確認した後、オレもヘリポートに戻って、空港から自宅に帰った。

メイ……。

あの日からもう、約2ヶ月も経つ。
メイに会いたくて仕方ない。

これが恋ってやつか。

しかも、全く音沙汰ないし。

あのアザ、脚全体にあった気がするんだよね。

何だったんだよ……
アザのことを聞くと、それには触れられたくないと言わんばかりに、出国ゲートに向かった様子からして、何かある。

今すぐにでも行こうと思えばアメリカ行けるんだけど。
なんか、行く勇気なくて。

このとき無理やりにでもアメリカに行っていれば良かったのに。

オレもメイも……あんなツラい思いしないで済んだ。

行かなかったオレは、バカだったよ。
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