ワンダー、フルカラー
「だ、だってさぁ…」

私は臼田くんの視線を避けるかのように、目を合わせないようにしてその先の言葉を繋ぐ。

「(意識しちゃって)恥ずかしいし…」

括弧の中は敢えて言わない。言ったら負けだ。
臼田くんのことを名前で呼んでいた頃はまだ恋愛感情を抱いていなかったから出来たこと。現在の私は恋愛感情を抱いているから名前を口にしようとした瞬間照れてしまうのだ。

「…じゃあ真夜は僕のことを照れるからという理由で名前を呼んでくれないのですか。そうですか。」

早速私の名前の方で呼んでくる臼田くん。呼ばれた瞬間顔に熱が昇ってきた。
臼田くんは声をもの凄く低くさせて、持っていた箸と茶碗をテーブルの上へと乗せる。
音だけでそれを判断して、大丈夫かと思って見上げてみた
のと同時に、黒い笑顔が目に入り。私の体から変な汗が噴き出した。
まずい…非常にまずい。昨日の怖い臼田くんが降臨してしまったようだ。

「お、爽助くん良い笑顔。」

能天気な父さんは、そんな臼田くんを見て楽しそうに笑っている。

「マヨネーズって呼ばれるのと真夜だと可愛い呼び方はマヨネーズの方ですかね?どう思います『根津さん』。」

臼田くんが父さんに向かって『根津さん』と言えば、父さんは楽しそうに私のことを見てくる。
まるで新しいおもちゃでも見つけたかのような目だ。娘はおもちゃじゃないっ!

「真夜子ぉ、お前この家では父さんがルールなんだからな?父さんがここで『マヨネーズ』って言ったらお前は爽助くんに『マヨネーズ』って一生呼ばれ続けるんだぞぉ?」
「そ、そんなことしたら臼田くんのこと『ソース』って呼ぶもん!」
「父さんが『ソース禁止』と言えば爽助くんのことは『ソース』って呼べません。はい、ソース禁止!」
「ズルい!!」
「ズルくねぇー。」
「卑怯者おおお!!」



父さんとの喧嘩のせいで時間がなくなってしまい、この後私達は急いで家を後にした。
臼田くんの名前の件は徐々に言えるように頑張るということで収まったけれど、1日中一緒にいる臼田くんは学校で2人きりになると、名前の方で呼ぶように促してくる。
彼の黒い部分が少し芽生え始めた今日この頃だが、

「あ、インコ。」
「何で廊下にインコ!?」

不思議な部分はいつもと変わらない。
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