DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「約束だ――」
歩み寄った千聖が、未央を抱き寄せ唇を覆う。
再び月が顔を出し部屋の中がその光で少し明るくなると、千聖はやっと微笑んだ。
ふと目をやった未央の頬に涙が光っている。
「どうした?」
「だって……千聖、このあいだの夜から顔も見てくれなくて、ずっと冷たかったんだもん。だから私……私……」
千聖の背に回された両手が、ギュッとシャツを掴む。
「淋しかったんだもん」
そのまま胸に顔を押し付けて、未央は小さな声で呟いた。
「ゴメン。悪かった。―― 本当は俺も淋しかったよ」
「ホント?」
「もう君無しじゃ一日も暮らせないって事が分かった」
引き寄せられるように、もう一度唇を重ねる。
「またキザだって言われそうかな」
未央が首を横に振る。
千聖は微笑み、未央の髪を撫でた。
「じゃあ始めるか」
「うん」
再び壁に向かう。
ペンライトで照らしながら、天秤の上にアナグラムで割り出した順に石を置いていく。
「これが最後の石だ」
「何か緊張するね」
胸の前で手を組んだ未央の頭を、千聖はクシャクシャと撫でた。
最後の石【DEAR】をそっと置く――
上下にゆらゆらと揺れていた天秤が止まると、途端にカチリと音がした。
「これでトラップは解除されたはずだ」
「やっとパパの絵が手に入るんだわ」
満面に笑みを浮かべた未央を見つめていた千聖が、名を呼ぶ。
「未央」
「なに?」
「廊下に出ていろ」
「え?」
続けられた言葉に、大きな瞳が不思議そうに千聖を映した。
「もしもの時のためだよ。絵は俺が外す」
「『もしもの時』って―― トラップは解除されたんでしょ?」
「ああ、たぶんね。でも確実にかどうかは分からないし、トラップが一つとも限らない。だから―― 未央はここを出ていろ」
その理由を耳にした途端、未央の顔から笑みが消えた。