Faylay~しあわせの魔法
「しかり掴まって!」

ぐったりしている夫妻にそう声をかけると、グィーネの姿はゆらりと揺らめいて空中から消えてしまった。

同時に、リディルの体から完全に力が失われる。

「リディル!」

フェイレイは彼女を左腕に抱え、呼びかける。だが、閉じられた瞼はピクリとも動かなかった。元から白い肌が、更に蒼白になっていた。


『ククク、抵抗はやめるのだ。私から逃れることなど出来ん』


何とか高度を維持しようとグラつく飛行艇の周りに、リンドブルムが集まりだす。


『さあ、リディアーナを寄越せ』


フェイレイはリディルを強く抱き寄せ、周りを飛び交うリンドブルムに鋭い視線を向けた。

「自分の妹をこんなにして、奥さんまで危険な目にあわせて……セルティアを、世界を、こんな戦いに巻き込んで……」

ゴオウ、とフェイレイの周りを闘気が取り囲んだ。

辺りに飛び散る覇気でリンドブルムが怯む。

一気に膨れ上がっていく闘気に圧され、飛行艇は水平に保てなくなる。ヴァンガードは必死に操縦桿を握った。

「あんたは一体、何がしたいんだ!!」

横一文字に振られた剣から出た闘気が、鋭い刃となって放射状に放たれ、リンドブルムたちに襲い掛かった。

どんな攻撃をも受け付けないはずの、硬い鱗を持つリンドブルムの首がスパンと斬れて、宙にゆっくりと投げ出されていった。

それを目撃したローズマリーは、驚きの表情でフェイレイを振り返る。

燃えるような怒りを表すかのように、彼の赤い髪が風に靡いていた。




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