Faylay~しあわせの魔法
「何が、したい……?」

一筋の光も差し込まない暗い室内で、カインは静かに呟いた。

「我が、望みは……一切の、破壊……」

くつくつと、くぐもった笑い声を響かせていたカインは、やがて自分の首を指でなぞった。

つ、と流れ落ちる真っ赤な血が指に絡まり、それが指先から零れ落ちていくのを、どこか遠くを見るような目で眺めた後、それを舌で舐め取った。

「すべて、滅ぼしてやる」

紫暗の瞳が鈍い光を放つ。

だが、その光は急速に失われていく。

力の媒体となっていたアレクセイが、戦艦の甲板上で倒れたのが分かった。今の赤髪の少年の攻撃をまともに喰らったのだ、無理はなかった。

このままアレクセイの体を食いつぶしても構わなかった。だが、それは出来なかった。

爪の伸びた指先が、意に反してアレクセイを通して貫通してきた、首の傷に食い込んでいく。

「……まだ抵抗する力が残っているのか?」

カインはクッ、と笑うと、目を閉じた。

「この現実を見てもなお、お前は生き続けられるのかな?」

カインの顔から笑みが消える。途端に、グラリと体が傾いて玉座から滑り落ちた。

どさり、と床に仰向けに転がる。

「う……」

小さく呻き、ハアハアと喘いでいると、伸ばした掌がビチャリ、と音を立てた。

ぴたん、ぴたん、と雫の落ちる音が、闇の中、静かに響いている。緩慢に首を動かしてそちらに目をやり、呆然とした。

床の上に重なる、いくつもの肢体。そして、玉座へ続く階段をぴたん、ぴたんと音を立てながら滴り落ちていく血の流れ。

咽返るような鉄錆びの匂いに、思わず顔を顰めた。

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