Faylay~しあわせの魔法
ゴウゴウと冷たい風が唸りをあげる。

アリアの示してくれた崖をすり抜けるルートは、人一人が通るギリギリの幅しかない、狭い洞穴だった。

長い時間をかけて自然の力で空いたらしい洞穴の、濡れた壁に手を付きながら前進していると。

誰かに呼ばれたような気がして、フェイレイは振り返った。

リディルも同時にである。

「うわ、なんですか!?」

リディルのすぐ後ろを走っていたヴァンガードは、急に立ち止まって振り返ったリディル、そしてフェイレイに驚く。

「どうかしまして?」

最後尾を走っていたローズマリーが、怪訝そうに訊く。

「あ、いや……なんでもない」

フェイレイは同じく振り返ったリディルを気にしつつも、再び走り始めた。

数歩進んだところで、追いかけてこないリディルのところまで戻り、彼女の手を取ってまた走り出す。

「大丈夫」

ぐっと、力強く手を握る。

「父さんは大丈夫」

そう言いながら走るフェイレイの背を、リディルはジッと見つめる。

「……うん。大丈夫」

リディルも手を握り返す。


きっと大丈夫。

絶対大丈夫。

呪文のように、心の中で繰り返す。



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