Faylay~しあわせの魔法
ドオオオン、と雷鳴が轟いた。

その光を背に負い、黒衣の騎士が立っている。

「アレク……セイ?」

いや、違う。

姿形だけが同じの別人だ。ゆらめくようにその身から立ち上がる“気”は、幾度となく接してきたもの。──魔王だ。

フェイレイはその魔王の腕に、リディルが抱かれているのに気づく。

「リディル!」

ぐったりとした様子の彼女に叫びながら駆け寄る。

「寄るな」

魔王は低い声で一喝すると、鋭くフェイレイを射抜いた。それだけで一陣の風が巻き起こり、フェイレイの足を止める。

「お前などが触れて良い相手ではない」

魔王の足元に落ちていたフェイレイの剣のかけらが、ふわりと浮き上がる。

「お前たちの罪、その身で償え」

ヒュ、と空気が高い音をたてたと思ったら。

剣のかけらが、フェイレイの胸に深く、深く突き刺さっていた。

「っ……」

その衝撃に身体が後ろへ飛ぶ。

息を詰まらせながら、空へ身を投げながら、フェイレイは手を伸ばした。

リディルへと。

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