アンガー・グラッチ・ヘイトレッド
「さ、滝本君。これに乗って。」
詩織ちゃんが指差した先には近所のおばさん達が乗ってそうな、いわゆるママチャリが公園の金網に鎖で繋がれていた。
「鎖で止めといたんだけど、鍵をなくしちゃったのよね。」
詩織ちゃんは少し恥ずかしそうに言った。
おそらくクロちゃんと戦っているときに無くしたんだろう。戦いの時にあれだけの動きをしていれば無理もない。
「いや、鍵が無きゃ無理じゃない?これ鎖で繋がってるしさ。」
「なんのためにペンチ持ってきてもらったと思ってるのよ?」
詩織ちゃんは真面目な顔で俺を見る。
「いやでもさ、おとりに自転車はいらないと思うけど。つか俺自転車あるから必要なら持ってくるよ。」
「自転車はもしクロちゃんに襲われそうになったときのための緊急避難用よ。時間が勿体ないし今日のところはこれ使ってなさいよ。」
「確かにそうだけど。」
「それに…もし…滝本君に何かあったら困るじゃない…。」
俺は彼女の悲しげな顔に圧されるように鎖をペンチで切断した。わりと細めの鎖だったから良かったけど、普通の鎖だったらお手上げのところだ。

すると詩織ちゃんの悲しげな表情はコロッと変わる。
「よし。じゃあ良く聞いてね。滝本君はこのまま自転車に乗ってコンビニまで行って、この公園まで帰ってきてもらうわ。」
「おとりって割と簡単だね。」
「それだけじゃ無いわよ。行き帰りで怪しいヤツを見かけたら、さり気無く視線を送るの。クロちゃんに取り付かれてる人はそういうのに敏感だから。多分あとをつけてくるか、喧嘩を売られるかするはずだし。」
「やっぱ危険かも…。」
「あとは簡単。捕まらないようにして、公園まで連れて帰って来れば私が何とかするから。出来る…?」
「ま、任せといてよ!」
「あ、一つ忘れてた。手は出しちゃダメだからね。逆上して狂暴になるし、後々面倒なことになると嫌だから。…まぁ大丈夫かな?手を出す余裕なんて無いと思うし。」
「ははっそだね…。」
俺は詩織ちゃんに見送られてコンビニに向かって自転車を漕ぎ出した。
さっきのブランコのせいで汗をかいていたから少し寒い。
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