アンガー・グラッチ・ヘイトレッド

クロちゃん

クロちゃん。
丸くて黒い。
中身は怒りと恨みと妬み。そういった人の黒いモヤモヤした感情がぎゅっと集まったもの。
詩織ちゃんにそう説明された。
クロちゃんと最初の遭遇は真夜中の公園。

その日の俺は荒れていた。
高校生活という単純な繰り返しへの不満。
他にやるべきことがあるんじゃないのか?といった疑問。だけど、それが何なのか分からない苛立ち。
明日への不安。
それらに押し潰されそうになった俺は、家を飛び出した。行く宛なんて無い。
何気なく歩いてたどり着いた先は公園のブランコの上だった。
そこにちょこんと座って揺れていた。
勢いをつけてどんどん高く。
顔に当たる風が気持ちいい。
軽く汗ばんできた。
必死にこいだおかげで十分な高さと勢いがついた。
あとは

跳ぶだけ。

タイミングを計り勢いに乗って飛ぶのだ。
小学生以来やってないからなかなかのスリルがある。失敗してブランコを囲んでいる鉄製の柵に激突すれば、ひょっとすると骨の一本や二本は覚悟しといた方がいいかも知れない。
何で跳ぼうと思ったのかは自分でも分からない。けどもう止められない。
と言うより止めたくない。
俺は飛ぶ!

いち

にぃ

さん!

「オリャッ!」
見事鉄柵を越え、地面に見事着地した。が、
「いってぇぇぇー!」
両足にがっちりと踏み固められた固い地面から衝撃が伝わり、たまらず地面に転がった。
夜空には僅かに星がっちりと輝いている。
ちっぽけだけど。
くだらない事だけど。久々に味わう達成感と喜びで顔が笑う。
加えてこの空間を一人占めしているという優越感。
頭の後ろではブランコが一人できぃきぃ音を立てながらおかしな方向に揺れている。
「俺ってバカだよなぁー。あ?」
頭上に黒い球体が浮かんでいる。
「これ…?」
俺は不思議に思い、黒い球体に手を伸ばす。

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