アンガー・グラッチ・ヘイトレッド
そして…それは闇雲が座るのとほぼ同時にやってきた。
沈黙を守っていた彼女がいつもの様に口を開いた。
「うるさいと思ったら…」
頭の天辺から足の爪先まで衝撃が走った。
久々に聞いた彼女の声に腹の底から喜びが込み上げる。
「アンタ達が騒いでたわけね!」
振り返るとそこにはいつの間にか立ち上がり腕を組んで少しだけ笑う詩織ちゃんがいた。
僕の体は反射的に詩織ちゃんを抱きしめていた。
何の迷いも躊躇いも無い純粋な気持ち。
目に涙は浮かんでいるだろうか?
闇雲は俺のことをどんな目で見ているんだろうか?
「ちょっ!っと、何すんのよ!?」
でもそんなことはどうでも良かった。
「いつまでくっついてんのよっ!」
あえなく押し返されて尻餅ついた俺。
「あーのー?お楽しみ中に悪いんだけどさぁ…。」
そう言ったのは闇雲だった。
「別に楽しんでないわよ!てか何でここにいるのよ!?」
詩織ちゃんは闇雲に刺すように鋭い視線を向けた。
「まぁ…それはいいや。つか、元気になったんなら早いとここっから出ようぜ!なぁ?修一。お前もそう思うよな?」
闇雲は詩織ちゃんの質問には無視して俺に同意を求めてきた。
「まぁ確かにそうだけど。でもどうやって?ここは…」
ここはクロちゃんの中だぞ。いくら歩いたって出口は見つからなかった。
こう言おうとしたら、暗闇の中から聞こえてきた声に遮られた。
「そんな必要無い…。」
黒い砂が下から寄り集まって人型になり砂人形が出来上がった。それ、は俺達3人の前に仁王立ちして立ちふさがった。足の指や手の指はしっかりあるのに顔は無かったけど、その堂々たる様子はまるで俺達を睨んでいるかのように思わせた。
「何だって?のっぺらぼうさんよぉ!」
と言った闇雲の声に全く反応しない。それが気にくわなかった闇雲は「上等だっ!」と叫びながら砂人形の頭を釘バットで殴った。どさっと音を立てながら砂人形は崩れ、闇雲は「よわっちぃ!」と崩れた所を踏みつけた。が、
「…!?」
踏みつけた右足の足首を黒い手が掴んだ。動揺する闇雲をよそに、その砂の手は思い切り砂の中に引っ張った。
「ぐわっ!やっべぇ!」
闇雲の体は一瞬でいとも簡単に腰まで砂の中に引き込まれた。
「あのバカッ!」
「闇雲っ!」
俺と詩織ちゃんは同時に叫び駆け寄った。
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