アンガー・グラッチ・ヘイトレッド

闇雲修一






「起きねぇな。」
闇雲修一の呟きを無視して滝本修一は藍原詩織に呼び掛け続けた。
闇雲修一とは釘バット使いの修一のことである。闇雲という名字はいわばペンネームである。自分で自分に名づけた名字。先に目覚めた滝本修一が自分と同じ名前だと知ったときに思いついた。
闇雲はここで何が起きたのかを修一に全て聞いたし、自分がどうしてここにいるかも修一に話していた。
「この子、詩織って名前だったんだな。彼氏持ちだったとはな…意外だったぜ。」
彼氏という言葉に修一は反応した。
「彼氏って!?」
「何だよ?違うのか?こんな訳も分からないことに付き合っているなんて彼氏か変人のどっちかだと思ったんだけど。お前は変人の方だったのか。」
闇雲はわざとらしく修一から少し離れた。
目覚めて一番最初に闇雲を自分と同じ名前だと知って何か運命的な神秘のような感覚を感じていたのに、たった数分間で闇雲の印象はがらりと変わり今では何だコイツは?と不信感さえ生まれていた。
「俺は変人じゃない!」
「じゃあ一体なんなんだ?見た感じだと戦えそうもないし。つか普通の高校生です。ってオーラが漂いまくりなんだよ。」
「オーラって…エハラさんじゃあるまいし。」
「エハラ?エハラって誰だ?強いのか?」
何かもう闇雲と話しててもらちがあかない。そう思って俺は口を閉じた。悪いやつじゃ無いのは分かるけど何かが俺とは違う。友達にはなれるけど親友にはなれない。そんな感じだ。
早く詩織ちゃんに目覚めて欲しかった。
「おいおい!俺がお前たちを掘り起こすのにどれだけ苦労したと思ってるんだよ?もう少し話に付き合えって。」
「話するんだったらここから出る方法でも考えててくれよ。」
闇雲は立ち上がって素振りを始めた。よっぽど暇なんだろう。
「まぁとにかく俺が言いたいことは…!俺達がじたばたしたとこで詩織は起きないってことだ。」
「…?」
「つまり、ソイツ自身の問題なんだから自分でなんとかしなきゃ駄目ってこと。」
闇雲はそれだけ言うと素振りを止めて、どかっと座り込んだ。
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