アンガー・グラッチ・ヘイトレッド
「おいおいおい!思ってたよりヤバい事になってんじゃねぇの…!?」
後方の女に向かって発せられる男の声は威勢のいいバイクの轟音にかき消されてしまう音量で、普段に彼が見せる態度からは見られない遠慮がちというか恥ずかしさのようなものが混じった声だった。
「はぁ!?何言ってるか分かんない!」
対して彼女の声は堂々としていて疾走するバイクの上でも男にははっきり伝わった。
「これヤバいんじゃねぇのぉ!?」
照れを隠すようなふうにだけは聞こえて欲しくないと力み過ぎて、妙に語尾に力が入ってしまった。

はっきり言って彼は慣れて無かった。
ちょっとマジで勘弁してほしい状況だった。
それと同時にあの場に置き去りにしてきた修一が可哀想だと思っていた。いや、自ら置き去りになった修一が、だ。
まぁこの状況だと仕方の無い事だ。
そう思ってもやはり闇雲はこうしてキツく抱きしめられている状況がたまらなく苦手だった。
こうされている分には彼女は──詩織はただの少女だったから。
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