アンガー・グラッチ・ヘイトレッド
「苦しむ?どうして?」
闇雲の顔が曇る。
「とにかく…、俺はもう懲りたんだ。まだ続けたいんなら勝手にやれ。」
「詩織ちゃんのこと本当に知らないのか?」と、言いかけて闇雲に制止された。
「言ったはずだぜ!勝手にやってくれってな…。」
俺はため息をついてからゆっくりと立ち上がった。
「お大事に。」
俺がそう言うと闇雲は何も言わずに手を上げてバイバイと振る。
病室を出た俺は過去に詩織ちゃんと一緒にクロちゃんと戦った場所を巡ってみることにした。

滝本が居なくなった病室で闇雲はカーテンが閉まっている隣のベッドに向かって話しかけた。
「ったくよぉ…。なんでこんな面倒な事すんだよ?」
するとカーテンの向こう側から沈んだ声の藍原詩織が応えた。
「うるさいわね。こうした方が真のためになるのよ。」
「ったく…女の考えてる事はわかんねーな。アイツ…自分がくたばるまでお前の事を探し続けるぜ?」
詩織は何も言わずに病室から出て行った。


けして数が多いとは言えない詩織ちゃんとの思いでの場所。一つまた一つと巡る度にこんな事しても無駄なのかなって思いが増す。
あの戦い、最後の最後…あともう少しで自分が存在する意味を見つけれそうだったのに大切なものを2つも失って得たのは、自分の無力感だけ。この無力感から逃れたくて…暗い霧の向こう側にある自分の存在理由を見つけたくて戦ったのに。
誰もいない公園のブランコで揺れながら呟いた、
「俺は必要とされたかっただけなのに。」
完全に行き場を失ったって感じ。どこに行ったって何をしたってこの気持ちが晴れることは無い。
こんなツラい現実から脱け出して非現実が錯綜するクロちゃんとの戦いがしたい。あの戦いの中に俺の居場所がある。そして詩織ちゃんに「あなたが必要なの。」って言ってもらいたい。
ブランコは止まり立ち上がった俺は地面に一歩を踏み出す。
それしか無いならやるしかない。
とりあえず今日の所はこの公園から始めてみようと思う。
「来やがったな。クロちゃん。綺麗な満月だってのに。」
月明かりに浮かぶクロちゃんは不気味に笑う。
「詩織ちゃんのとこに連れて行ってくれよな!」
胸には希望。手には木刀。こうしてまた長い戦いが始まった。

「いつか…君にたどり着いてみせるから。」
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