アンガー・グラッチ・ヘイトレッド

明日の見えぬ僕ら〜終〜

「よぉっ!元気だったか?」
うるさいくらいに元気で苛つく闇雲の声。俺に手を振りながらヘラヘラと笑っている。
俺は控え目に右手を挙げて「久しぶり。」と挨拶を返す。
「おいおい!どうしたよ?元気ねーじゃん?」
闇雲は病院のベッドに胡座をかいて俺に手招きする。
俺は病室の端にあるパイプイスを持ってきて闇雲のベッドの側に座った。
「お前が元気有りすぎなんだよ。腹に穴が開いてんだろ?」
闇雲の腹に巻いてある白い包帯が目立つのは黒いジャージを前を閉めずに着ているせいだ。
「あぁ?これか?対したことねーよ。血も出てねーし。つか、覚えてるだろ?俺のタフさをさ!」
「はいはい。そーだったな。お前は…」
「…?」
突然黙った俺に闇雲は首を傾げる。
本当は…
本当はあの時の、戦いが終った後の俺の記憶に残っているのは血まみれの闇雲と風に舞う黒い砂と詩織ちゃんの後ろ姿。
あれから詩織ちゃんを見ていない。あの後すぐ詩織ちゃんはどこかに行ってしまった。何も言わず振り返らずに真っ直ぐに。追いかけたかったけど追いかけられなかった。瀕死の闇雲を抱えていたし。
詩織ちゃんは今も戦っているんだろうか?
だとしたらどこで?
無事なのか?
もしかしたら怪我してるかも。
どうして何も言わずに行ってしまったんだろう?
詩織ちゃんを思うと…疑問と不安が山ほど浮かんでくる。
戦いが終ったのは良いことのはずだけど、心の底から喜べ無い。むしろまだ戦いが続いていればとさえ思う。だって戦いが続いていれば今だって詩織ちゃんと一緒にいられただろうから。
「もしかしてあの女の事で元気ねーのか?」
「…っ!」
ずばり当てられて言い返せなかった。
「そーかぁ…。さてはアイツ、消えちまったんだな?」
「なんで分かるんだよ?もしかしてお前、何か知ってるのか!?」
俺が迫ると闇雲は頭の後ろで手を組んでベッドに横になった。
「何にも知らねーよ。女の考えてる事なんてわかんねーし。つか、お前の考えてる事もわかんねーし。」
俺は椅子に座り直して、
「どーいう事だ?」
「そのまんま。あの女を見つけてどーする気だ?まだ苦しみてーのか?」
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