蒲公英
そこまで考えて、僕は小さく首を振った。






後悔してももう遅い。

別の未来なんてないのだと必死に言い聞かす。






河南子にはなんの不満もないのだから。

なにもためらう必要なんてないはずだ。

胸騒ぎなんて忘れてしまおう。

これはきっと生活が変わってしまうことへのただの不安だ。






河南子のことを大切にしてやろう。

幸せにしてやろう。

僕のことを信じて疑わないこの女性を。

たったひとりの、愛しい女性として…。






僕は何度も自分にそう言い聞かせてやった。

きっとできると思った。

だけど…。






河南子の寝息を確かめた僕は、無意識に呟いていた。

暗闇の中で顔が見えない女性の姿に、ありったけの愛を込めて。











「…沙羅」





















もう…、だめだと思った。
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