蒲公英
力が抜けた僕はガタッと腰を降ろしていた。






まさに放心状態だった。

叱ってほしかったはずなのに…。

僕は未だに沙羅の影に一喜一憂し、それでもなお縋りつこうとするのだろうか。






マスターはそんな僕を冷めた目で見つめた。






「愛海。お前は俺に言ったな?河南子さんを愛している、と」






はっと僕は俯いた。

あれは確か、みんなに結婚の報告をしたときだった。

僕は確かに河南子を愛してると言った。






でも…、本当は河南子に愛という言葉を使える自信がなかった。

その言葉は、ずっと沙羅のためだけにあったものだ。






「波止場よりも…、と聞くべきだったな」
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