蒲公英
「まったく。甘えん坊で寂しがりやだっていうのは事実らしいな」

「なんだよ、それ」




だけどマスターの言葉は余計に僕の心を揺さぶった。




「ちがうのか?波止場はお前のことをそう言っていたぞ?」

「沙羅が!?いつ!?」




僕は思わず腰を浮かして意気込んだ。




「5年前だ。お前らの卒業式の前の日、波止場はひとりでここに来た」

「それで!?」

「少し、話をしただけだ。…あいつがあんなに寂しそうに笑うとは思わなかったがな。ひとつだけ、言い残していった」






―マスター。湧己のこと、お願いね。甘えん坊で寂しがりやなところもあるけど。本当はただ優しいだけなの。だから、ずっと傍で、話聞いてあげてね。




「…それだけだ。お前が知りたがってることはここにはない。あいつはきっと、どこにも残していかなかったんだろう」
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