アルカディア少女
――詩織の悲しそうな瞳を見て、孝一はああ、この女の為ならどんなことだってしてみせ
ようと、そう思った。例えばソレが、人を一人殺すことだとしても。
「わかった詩織。俺等の証拠のために、俺はこの女を殺すことにする。」
そう言った掠れた孝一の声も、孝一の視線も目の前の恋人である詩織にだけ、向けられていた。
「それでこそ、私の孝一ね。さぁ、殺して頂戴。」
微笑む詩織、微笑んだその姿はまさに悪魔の恋人。悪魔のそんな恋人に見惚れる。
「やめて、孝一くん!」
彼の足元でひれ伏す女が一人、恐怖に声を上げた。見苦しそうに孝一は女に目をやる。その目にはもう不安の色は微塵もありはしなかった。
マグナムの銃口が女の頭蓋骨にのめり込む。
「斉藤、テメェはさっき、この俺がもっと良い相手を見つけたとそう言ったな?斉藤、テメェの頭はイカレてる。」
孝一はさらに強く女に銃口を押し付けた。女が痛みに小さく呻き声をあげる。
カチャリッ、引き金が引かれる音。
「よく覚えとけ、俺はもう詩織かしか愛さない。」
そして、悪魔が引き金を強く掴む。
「や、やめて孝一くん!」
孝一の長い指が引き金を引く。