アルカディア少女
「詩織?」
訝しさにほんの少し眉を寄せながら、彼は音がした自分の腕の中を覗きこむ。
「ねぇ、孝一。私しか愛さないっていう証拠、ある?」
もう震えてはいない彼女の声。孝一はギクリとその目を見開いた。
「詩織、何してんだよ?」
彼の視線の先、そこには彼のポケットからマグナムを取り出して、己の手に持つ詩織がいた。二コリと、冷かかにそして勝ち誇ったように微笑む彼女は、とても、美しかった。
マグナムを片手に持った詩織はそのまま孝一の胸の前にその銃口を向ける。このまま打たれるのだろかという、考えがふと孝一の頭を過ぎったが、しかし、どうやら彼女は目の前の人物を打つ気はないらしい。
先ほどの孝一と同じように、二ヤリと口角を上げる彼女の笑みには何か、とてつもなく黒い計画が存在しているように思えて仕方が無かった。
「孝一、私しか愛さないという証拠があるのかないのか。答えてよ。」彼女はそう言う。
彼は、その冴える頭で必死に考えた。しかし、今この場で彼女に捧げられるのは彼の彼女への想いしか思いつかない。
「生憎、証拠は俺の愛情しかねぇな。」
そう言ったけれども、彼は彼女がそんなことでは証拠にならないと言うのを解かっていた。
ああ、彼女はこれから何を自分の言うのだろうか?彼にはただ、黙り込み彼女の言葉を待つしか他に術がない。
「それじゃあダメよ。ねぇ、孝一。貴方には証拠がない。ならば、これから私が言ったこをと成し遂げてくれたのならば、私はそれを証拠として受け取ることに、そうしてあげる。」彼女が嬉しそうに笑う。
「ああ、俺はテメェの言ったこと全て、やってやるよ。」彼女に見惚れる彼には、そう答えるしかできなかった。
それじゃあ、耳を貸して頂戴。彼女はそう言うや、チラリと時計に目をやって彼の手招くと、寄せられた耳に小さく言葉を吹き込んだ。嬉しそうに言葉を吹き込む彼女、その言葉の意味は実に、悪魔の女らしかった。
「それじゃあ、私に証拠を見せて頂戴よ。」
詩織はそう言うやいなや、孝一の手の中にマグナムを押し付け、カウンターの下へとその身を隠した。壁に掛けられた時計が、カチリと音を立てて時間が来たと2人に、
いや3人に告げた。