眠る心

思い出せない記憶

彼が花を手に病室の中へ
入って来る。
  
ドアを閉める後姿、振り返り
私を見つめる瞳。
  
その姿は完璧でため息がでる程
  
映画の世界から現れた英雄
(ヒーロー)のようで
  
この世の人ではないような
存在感に魅了され

彼のひとつひとつの何気ない
仕草から目が離せなくなる。

「なぎ、遅くなってごめん」

『なぎ・・・』

彼の声は、とても耳に心地よく
  
以前、聞いた事のあるような
艶のある響き。
  
彼は、私の元へ歩み寄り
私の元気な姿をみて
心の底から安堵した表情を
浮かべ優しい低い声で話す。

「無事で良かった
 すぐに来れなくてごめん」

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