眠る心
「そうですか、でも
 彼の顔は思い出せない」

「はい、彼の事を
 きっと愛していたんだと
 思うのですが・・・
 今の私の中に、彼への感情が
 あるとは言えません

 彼の事を素敵な人だとは
 思うのですが・・・
 こんな私と彼とでは住む世界
 が違いすぎて、とても
 現実には思えません」

凪子の言葉をメモに取りながら
紫季は言う。

「でも、彼は君を愛している
 だから、君は胸が痛い」
 
「はい、とても胸が痛くて
 苦しくて・・・
 彼が、ツアーの準備の為に
 来週から、お見舞いには
 毎日、来る事ができないと
 言った時・・・
 正直、私はホッとしたんです
 
 そして、そんな自分に
 ゾッとしました
 
 なんて、私は酷い人間
 なんだろう・・・
 
 なんてヒドい」

私の頬を涙が伝う。
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