宛て名のないX'mas
宛て名のないX'mas

ACT 1

「あ〜、もうくどい!くどい!くーどーいー!どこもかしこも、クリスマスばっかり!」


イルミネーションの光が溢れ、BGMが流れ、街がクリスマスモードになっていくことに不満をこぼして、裕美は鼻をすすった。


高校一年生。

今日は終業式で、明日から冬休みだ。


「そりゃあ、もうすぐだもん、メリーメリークリスマス」

友達の里奈は、マフラーに顔をうずめ、駅前の電光掲示板に目をやる。


《クリスマスまで、あと七日》


「大体さ、日本人はクリスチャンでもないのに、こんな騒ぎ立ててる意味が分かんない」


「…裕美チャン?強がりは痛々しいわよ」

「は、はっ?」

「本当はハッピーエンドのクリスマスドラマ、ちゃっかり撮り貯めしてるくせに」

「うっ…」


裕美は痛い所をつかれて、はぁ〜と肩を落とした。

そして、「だってさ」と切り出した。


「ロマンチックなクリスマスなんて、ありえないべ?一年に二日間だけの特別なイベントでありながら、あたしらには彼氏がいない」


「ちょっと、一緒にしないでよ。あたしは“今は”いないだけよ」

里奈は腕を組み、裕美に向かって舌を出した。


「あ〜あ。一度くらい、ロマンチックなクリスマス過ごしたいなぁ」


彼氏と過ごすだけが、素敵なクリスマスってわけじゃないってことは分かっていても、やっぱり憧れる、クリスマスデート。



裕美は今まで、一度もロマンチックなクリスマスを過ごしたことがないのだ。

昨年も一昨年も、友達と過ごすか、店の手伝いをするか、どっちかだった。


裕美は里奈と別れて、路地裏に入っていった。


裕美の家は、裏通りの小さな居酒屋だ。

昼間は普通にお昼ご飯を食べに、お客さん(主に常連)がお袋の味を求めやってくる。


店の名前は『家庭料理 敏子』。

そこで母と二人暮らし。
店の前の小さな看板が、風でカタカタ揺れて、裕美は「う〜寒っ」と腕をさすった。


「ただいま」

ガラっと戸を開けた時だ。


パーン!


「うひゃあ!」

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