宛て名のないX'mas

いきなり裕美に向かって、思いっ切り何かが飛んできた。

クラッカーだ。


「いらっしゃ~い…って、何だ、裕美じゃないの。おかえり」

「何なの、これ…」


火薬の臭い。

裕美は口元をピクピク動かしながら、顔にかかったクラッカーの中身を取った。

敏子はビールをジョッキに注ぎながら、嬉しそうに笑った。


「何って、もうすぐクリスマスじゃない?だからね、それらしいもの色々と買ってきたのよ。それでお試しに一発」


「心臓の悪いお客さんだったらどうすんのよ!」


「なぁに、もう。そんなカッカしないでよ。いいじゃない、クリスマスなんだから、少しくらいハメはずしたって。ねえ?はい、ビール」


敏子はカウンター席の男性客に、ジョッキを差し出した。

「ありがとう」


(げ…今日も来てるのか)

この目の垂れた頼りなさそうな男は、森田茂。実に福のありそうな顔をしている。


裕美は、森田が苦手だ。
なぜなら、彼は敏子の恋人だから。


二人は、もう付き合いだして二年になる。

やっぱり娘として、複雑な気持ちはある。


森田は喉を鳴らしてビールを半分ほど飲んでから、ふにゃっと笑って裕美を見た。


「クリスマスは、嫌い?」

「ええ、そりゃあもう(ちなみにアンタもね)」

「裕美!お客様に…」

「はっはっは。嫌いか、そうか、そうか」

「はぁ…(まったく、どいつもこいつも)」


どこへ行ってもクリスマスクリスマス。

裕美はうんざりして頭を掻いてから、首を回してコキコキと鳴らした。


敏子はとても幸せそう。

裕美は、ふうとため息をついてから、再び森田に目をやった。


(ああ、何かに似てると思ってたけど、この人、笑うとサンタクロースみたい)


そんな時、ガラっと戸が開いた。

皆そっちに注目する。



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