ぼくらの被服部。
「もっと早く漕げないの。ココだけならまだしも俺まで遅刻になるー」
あくび混じりに間延びしたしゃべり方で文句を言う旭は、俺の自転車の後ろに乗っている。全く良い御身分だ。
なかばまどろみながら乗っているので、しっかり寄りかかって密着している体温は肌寒い五月の朝に心地良い。しかしそれには問題があった。
「いや、あさひが寄っかかってるから立って漕げないんで早く出来ないんだよ?」
「そういや今日部活ー。ココ行く?」
「聞けよ。部活な、最近行ってないからそろそろ行かなきゃトラ……いや、長が怒るな」
「じゃあ俺も行くー」
幼馴染みとはいえ先輩の俺にこんな生意気な態度だが、一応なつかれてるようなので安心した。
うちの学校は例え全く出席しなくとも、なんらかの部活や同好会といった学校公認の組織に属していなければならない決まりがある。
俺と旭が属しているのは、被服部だ。
二年前、小学生の時からの腐れ縁とでも言っていい島崎虎左衛門が発足したまだまだ新しい部。
ただ虎左衛門と親しいという理由だけで、主に中学からの知り合いを中心として集められた、なんの被服の知識も興味もない集団だ。
虎左衛門はその特徴的な名を揶揄された呼び方、トラえもんと呼べば烈火のごとく怒る。たまに本気でトラえもんだと思っている人もいるからたちが悪い。
俺は昔から正式名称の虎左衛門と呼んでいたのだが、それさえも嫌らしく、部長の長をとって「おさ」と呼ばせ出した。今では部員以外にも定着して彼を下の名前で呼ぶ者はいなくなった。
少数民族の村長のような印象を受けるのだが、本人は満足らしい。
そんな長が被服部を創ったのにはもちろんわけがある。
長は女装が趣味なのだ。それはもうコスプレなんてレベルではなく、普段から制服までも女子のものを着用したいという重症レベルだ。
しかし服を作るのが好きなのではない。
重要なのは部活中に服が手に入るということと、部費が出るというところだ。
長の家族は虎左衛門なんて時代錯誤と言っても過言ではない程の名を付ける程の古風な人達だから、女装趣味なんて断固として認めてもらえないらしい。
だからプライベートで果たせないぶん、部活で発散するしかないと言っていた。
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