エングラム







「じゃあ、また来週な」

シイはそう言うとまた私の頭を撫でた。

花束を抱えた私は、嬉しそうに小さく笑う。

「ありがとうございました」

あぁ、と軽く返事をして、まだシイは私の頭を撫でる。

「いつまで撫でるんですかっ」

「…ビートルズのHere,There and Everywhereにこんな歌詞がある」

そう言うとシイは数フレーズ。
震えるぐらい小さく、彼の低い声は英語で歌う。

それから、こういう意味だ、と英語の歌詞の意味を教えてくれた。

早く教えてくれれば良いのに、と思うのと、歌ってくれて嬉しい。
そのふたつが混ざって、笑う。

好きな人が自分のために歌うなんて嬉しいことだと知った。

「お前もいつかなんか歌え」

「あー…私歌には自信なくて」

シイはその理由をすぐに読み取り、じゃあピアノ、と言った。

「ピアノなら、って読めたぞ」

「うわぁ。とりあえずまぁ、申し訳程度なら…」

じゃあ楽しみにしてる。
シイはそう言うと、少し腰を折り私の額に唇で触れた。



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