エングラム



唇が額から離れて、超至近距離。
シイが目の前でふっと笑った。

私たちがいる駅前から、音が消える。

「…!」

声にならない声。
キスされた額が熱い。

「………」

「おい固まんな」

シイにデコピンされて、はっ、と世界が音を取り戻す。

「だ、だっていきなりでしたし…!」

自分の声が自分の心臓の音で聞こえないなんて笑いもの。

「だから、」

シイは折った腰をしゃんと伸ばして、私に目を合わせる。

「そういうとこ、好きだ」


そんな柔らかい笑顔見せられたら、心臓が保ちそうにない。



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