エングラム



「電車間に合わなくなるぞ」

ほら、と言ってトンと私の肩を叩いた。

「ぅあ、はい」

額がまだ熱い。

「またしてやるから」

「結構です!」

それが口先だけだと気付いているだろうシイはくつくつと笑う。

「では、さよなら──シイ」

手を振った。

「さよならって言われると、狂っちゃいそうだ」

シイが肩を竦めた。

ビートルズのHere,There and Everywhereの歌詞のように言ったので、それが似合わなくて笑ってしまいそうになった。

「ではまた来週に」

私はそう言った。

“さよなら”よりも“また”は嫌いだったけれど、そう言いたくなる理由が分かった。

「あぁ、気をつけてな」

花束から、甘い匂いを感じた。



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